【ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)】具体的な取り組み・業績変化・成果指標はどうしてる?
昨今、「財務情報」だけでなく、「非財務情報」も考慮して投資を行う動きがあります。中でも環境(E:Environment)、社会(S:Social)、企業統治(G:Governance)の3つの要素を投資対象の決定に取り込むESG投資が活況です。
ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)も具体的な取り組み
- 女性活躍推進に関する目標策定
- 海外事業所とのクロスディスカッション
- 両立支援セミナー実施
- グループ障害者雇用推進室の設置
- 同性パートナーの配偶者認定
- ダイバーシティ&インクルージョンフォーラムの開催
- 在宅勤務制度
- フレックスタイム制度
- 兼職許可制度
- 配偶者転勤時休職制度
- 女性メンター制度
- 新型コロナ臨時手当
- 障害者支援団体との連携
- LGBTQ理解のための研修実施
- 外国人労働者に対して通訳者の配置
- 60歳以上の人材採用
- 男性の育児休暇取得促進
目標設定などが難しい分野ではありますが、例えば「女性活躍推進」に優れた上場企業を経産省が選定する「なでしこ銘柄」への追加を目指す、といった定性的な実績でも良いでしょうか。選ばれるためには定量、定性の両面で複数の基準をクリアする必要があるため、こうした銘柄に入れるかどうかはD&Iの効果測定で有効な指標となりえます。
「なでしこ銘柄」とは
「なでしこ銘柄」は、「女性活躍推進」に優れた上場企業を「中長期の企業価値向上」を重視する投資家にとって魅力ある銘柄として紹介することを通じて、企業への投資を促進し、各社の取組を加速化していくことを狙いとしています。
令和5年度「なでしこ銘柄」
企業価値向上につながる女性活躍を推進するためには、「採用から登用までの一貫したキャリア形成支援」と「共働き・共育てを可能にする男女問わない両立支援」を両輪で進めることが不可欠です。令和5年度は、こうした取組を両輪で進める企業を「なでしこ銘柄」として最大30社程度選定します。
また、「なでしこ銘柄」とは別に、「共働き・共育てを可能にする男女問わない両立支援」に関する取組が特に優れた企業を、新たに「Nextなでしこ 共働き・共育て支援企業」として20社程度選定します。
なお、「なでしこ銘柄」、「Nextなでしこ 共働き・共育て支援企業」については、いずれかのみの応募、あるいは両方に応募、どちらのパターンでも応募が可能です。(※ただし、「なでしこ銘柄」に選定された企業は、「Nextなでしこ 共働き・共育て支援企業」には選定されません。)
「なでしこ銘柄」選定基準
応募企業の中から、以下の5つの要件を満たす企業が審査対象となります。
1. 上場会社単体ベースにおいて、女性取締役が1名以上(社内・社外は問わない)
2. 女性活躍推進法に基づく行動計画の策定
3. 従業員数101人以上の企業
4. 厚生労働省「女性活躍推進データベース」に女性管理職比率を開示
5. 直近3年間平均ROE(自己資本利益率)がマイナスではない
審査されるためには、要件を満たした上で「定量調査票」と「定性調査票」を提出します。
なでしこ銘柄に選定されるメリットには、
①企業のイメージが向上する
②企業価値が上がり株価も上がる可能性があることなどが挙げられます。「女性活躍推進に優れた上場企業を中長期の企業価値向上を重視する投資家にとって魅力ある銘柄として紹介する」ことを目的としています。もともと投資家のために発表しているため、株価に一定の影響があるといえるでしょう。
経済産業省の公表レポートによると、なでしこ銘柄は株価指数が高い傾向にあります。
「D&Iをやって経営が上向くのか?」
この問いに対する答えとなるデータや根拠は、年月を経るにつれて集計され、研究結果が発表されてきています。
女性活躍が進む企業ほど、純利益が上がることがわかってきました。
ダイバーシティと業績は無関係だと思われている節(ふし)は、まだまだありますが、智剣・Oskarグループ主席ストラテジストの大川智宏さんのリポートでは、女性管理職比率で上位4分の1に属する企業群と、下位4分の1に属する企業群の業績比較で、純利益に大きな差がついたことが分かりました。
女性管理職が特に多い企業(高群)は増益率が平均してプラス28%。女性管理職が特に少ない企業(低群)は平均してマイナス43%の減益となるデータがあります。
また、ダイバーシティ先進企業は株価で優位、投資家にも魅力とされています。
市場全体に幅広く投資するユニバーサルオーナーと呼ばれる機関投資家は、企業が持続的に収益を上げられるかどうかを見ており、ダイバーシティは重要なファクターの1つとされています。
株式会社JobRainbow様が運営するダイバーシティ&インクルージョン(以下、D&I)に取り組む企業を認定するアワード「D&I AWARD」への参加など「定量化」できる取り組みを行うのも1つです。
効果測定は2パターン
効果測定の手法は、大きく分けて2種類あります。
一つは年次で行なうサーベイやアンケートで、D&Iに関する会社の全体的な変化を確認する方法です。
もう一つは、導入した施策ごとに随時アンケートを実施し、効果を測る方法です。
D&Iアワードであれば、参加企業の6割を大企業が占めることから、大企業におすすめであり、同業他社のスコアは、過去のD&Iアワードのレポートから確認することができます。
短期で「成果」はそもそも出ない
効果測定を始めたD&I担当者の多くが直面するであろう壁は、施策実施からあまり日が経っていない時点で、上層部や関係者から「成果が出ていないのではないか」と指摘されることです。
そもそも1年足らずで成果が期待できるD&I施策など、あまり存在しないため、上層部や関係者とは、そうしたD&Iの目的と性質について事前にしっかりとすり合わせておく必要があります。
D&Iの目的は従業員や組織のパフォーマンスを高めることによって業績を向上させることであるため、結果が現れるまでには相応の時間がかかります。D&I担当者は効果測定を毎年必ず実施し、データを蓄積していくことが必須となり、3〜5年単位の中長期的なデータを用いて施策の効果を説明するようにしたい。
D&Iのサーベイ回答率は高くはない
一般的に、D&Iのサーベイ回答率は高くはないため「工夫」が必要になります。
原因の一つとして、回答期間が部署の繁忙期・回答してもメリットがないと考えている・回答する項目が多いなど複数の要因があります
マネジメント層に協力を依頼するなど、部下へ積極的に回答を促す必要があります。
いかに「メリット」があるか、が重要になります。
サーベイの実施期間中に部署ごとの回収率を算出し、その結果を週次の経営会議などで共有するのも効果的です。D&Iへ非協力的な部署=評価に繋がる仕組みを作るのも1つです。
ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)とは
「ダイバーシティ」とは、直訳すると「多様性」、「相違点」、「多種多様性」といった意味があります。これを人間社会の中で考えた場合は、「人と人、または集団の間にある様々な違い」と言い換えることができます。この「違い」とは、例えば性別や年代、国籍、身体的特徴だけでなく、生活スタイル、宗教、価値観など、その人を構成するあらゆる要素が含まれます。
次に「インクルージョン」とは、「受け入れる」、「組み入れる」という意味をもつ言葉です。そして、これらを合わせた「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)」とは、多様性を認識するだけではなく、一人ひとりが受け入れ、尊重することによって個人の力が発揮できる環境を整備したり、働きかけたりしていく、という考え方です。
ビジネスの場面に当てはめて考えると、例えば「男性は外回りの営業、女性は事務作業」などと性別で一括りに区別するのではなく、「コミュニケーションが得意な人には営業を、細かい事務作業が得意な人にはバックオフィス業務」というように、性別を問わず能力を活かしてもらう環境を整備する取組が、D&Iの1つといえるのではないでしょうか。
このような経営を行うことを「ダイバーシティ経営」とも呼びます。
ダイバーシティ経営の推進について:ダイバーシティ経営の定義
経済産業省では、ダイバーシティ経営を「多様な人材を活かし、その能力が最大限発揮できる機会を提供することで、イノベーションを生み出し、価値創造につなげている経営」と定義しています。
「多様な人材」とは、性別、年齢、人種や国籍、障がいの有無、性的指向、宗教・信条、価値観などの多様性だけでなく、キャリアや経験、働き方などの多様性も含みます。「能力」には、多様な人材それぞれの持つ潜在的な能力や特性なども含みます。
「イノベーションを生み出し、価値創造につなげている経営」とは、組織内の個々の人材がその特性を活かし、生き生きと働くことのできる環境を整えることによって、自由な発想が生まれ、生産性を向上し、自社の競争力強化につながる、といった一連の流れを生み出しうる経営のことです。